ドイツゴサイコウ

ドイツ語の仕組みについて再考するブログ

【発音向上】強敵「Rの発音」のパターンあれこれ

みなさんこんにちこんばんは。今日は、久々にドイツ語ブログっぽい記事を書いてみよう思います。普段から目にすることの多い、「Rの発音」についてです。今日の記事では、母音の後に続くアに近い R の話ではなく(詳しくはこちら)、子音としての R を取り上げます。

 

ドイツ語の子音の R と言っても、地域差や使われる場面の差があり、細かくいうと三つの違う音があります。本記事のメインテーマはこれではないので、興味のある方は下にある補足をご参照ください。今日は、標準ドイツ語で一番メジャーな「喉を使って出す若干渇いた感じの R」の発音(下記①/ʁ/)に焦点を当ててお話していきます。

さて、実は R の発音のしやすさのカギを握るのは、R の前後の音の違いです。ひとえにR と言っても、いろんな音の組み合わせがあります。例えば、単語の最初に出てくるパターン。Ratte (ねずみ)、Rotkäppchen (赤ずきん)、Recht (法)、riesig (巨大)など。子音の後に続くこともあります。Probe (練習)、brechen (壊す)、treffen (会う)、Grüße (挨拶)など。後ろに続く母音を見ても、いろんなパターンがありますね。

 

唐突ですがここでわたしの思う R の発音しやすさランキングを発表したいと思います。

一位:他の子音で始まって a や o が続くもの ー groß (大きい)、Tradition (伝統)など。

二位:他の子音で始まって e が続くもの ー treffen (会う)、brechen (壊す)など。

三位:R で始まって a や o が続くもの ー Rabe (カラス)、rot (赤い)など。

もろもろ省略

最下位から二番目:他の子音で始まって i や ü が続くもの ー trinken (飲む)、Grüße (挨拶)など。

最下位:R で始まって i か ü が続くもの ー richtig (正しい), Rücken (背中)など。

 

 

実はこのランキングには規則性があって、わたしは個人的に R の音は a や o のように舌を下げて発音する母音が続く場合や、R の前に子音がある場合が発音しやすく感じます。なんとなく、子音が先にあると R を発音する前の準備期間ができる気がするような?逆に i や ü が後に続くものは、今でも結構よく変な音になります。

さて、音声学には調音結合(Koartikulation)という概念があるのですが、一つの音の発音は、必ず周りの音に左右されます。有名な例は、「カ」「キ」と発音する時の/k/の発音の違いです。囁きながらこの二つの音を発音すると、同じアルファベットで表される音でも、実際にはかなり違う発音になることがわかると思います。

というわけで、"ra" と "ri" でも事情は同じです。この R、同じ音であるように見せかけといて、少し違う音なのです。a は舌を下げたまま、i は舌を上げて発音するので、R を発音する位置(専門的にいうと調音点)が下がったり上がったりします。これの何が問題かというと、喉の奥に舌を近付けて発音するという R の特性上、舌が上に行くほど喉と舌の距離を詰めづらくなり発音が難しくなるのです。

また、gr という音は、発音する位置が近いのもあり、gと言った後に少し力むとそれっぽい音が出せるようになったりします。イメージをしては、ドイツ人がいら立った時に喉で出す音を真似する感じといいますか。

 

わたしの思う R の発音のコツは、とにかく自分が発音しやすい(かも)と思う音の組み合わせを見つけて、それをしつこく練習し続けること。ちなみにわたしが一番最初にドイツ語の R を発音できたのは、NHKのテレビでドイツ語に出てきた "Wo treffen wir uns?" という文にを復唱しているときでした。マライさんの発音を聞きながら、ひたすら録画を巻き戻して狂ったように真似していたら、急に掴める瞬間が来ました。

 

皆さんにも、特に発音が苦手な R がありますか?逆に、なんかこれならいけそうって R はありますか?"Wo treffen wir uns?" は文としての汎用性も高いのでおススメですよ。それではまた!

 

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補足:

①一番王道のやつ:/ʁ/ (Stimmhafter uvularer Frikativ)

ちなみにこれの無声バージョンは ch の音/χ/です。なんなら、よくよくドイツ人の発音を聞いていると、ほぼ ch と変わらないなってことも多いです。R は苦手だけど ch ならわかるって人は、最初は ch と言うつもりで発音してみると近い音が出せるようになるかもしれません。

 

②舞台ドイツ語で耳にするらしいやつ:/ʀ/ (Uvularer Vibrant)

わたしは、ドイツ語を話し始めた最初の頃、ドイツ語の R はとにかく喉を強く鳴らすものだという思い込みがあったので、いつもこれで発音していました。どちらかというとフランスのシャンソンに出てくるような、やたらとくるくるした感じの音です。ただこれは発音がわりかしめんどくさいので、あまり標準ドイツ語で耳にする機会はありません。舞台ではよくこの R を使うという噂を耳にすることが多いですが、舞台に行く機会があまりないので真偽のほどはわかりません。ラインラント方言でも使われるみたいな話もあります。

 

③巻き舌:/r/ (Alveolarer Vibrant)

おなじみバイエルン方言やオーストリア方言で耳にするバリエーションです。ざっくりいうと、スペイン語やイタリア語の R と同じ発音です。ドイツ語圏内で実際に使われる地域があるということで、ドイツ語の喉を使うバージョンの R が苦手な方によくおススメされる音ですね。

 

ちなみにこの三つ、音韻論的に言う自由異音(freie Allophone)というやつです。はっきり違う音のバリエーションはあるけどどの音を使っても意味は変わらないというあれですね。ドイツ語圏で言語学を専攻している皆さんはテストに出ますよ!日本語でいう東北地方の鼻濁音/ŋ/と九州地方の/ɡ/みたいなものです。

 

補足②:

かれこれ長いこと学術的知見を交えた「発音しやすさ」に焦点を当てたいと思い続けているのですが、本記事は論文ではないということで、個人的な経験則だけで書いていることをご了承ください。興味のある方は、"Artikulatorischer Aufwand/articulatory effort"なんてキーワードを使うと似たような話が見つかるかもしれません。