ドイツゴサイコウ

ドイツ語の仕組みについて再考するブログ

ドイツ人同士の会話についていけない理由

 みなさんこんにちこんばんは。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。大学も始まって、一気にブログおさぼりモードのねずみです。今日は、ドイツ人同士の会話の輪にうまく入れない現象について再考していこうと思います。

 

皆さんは、語学学校や外国人同士、一対一での会話ならついていけるのに、ドイツ人同士の会話になると一気についていけなくなる体験をしたことがありますか?私は、大学に入った当初、あまりに周りのドイツ人の会話についていけなくて衝撃を覚えた記憶があります。

実はこれ、言葉の社会的な性質と非常に深く関係しています。ここでは、「レジスター」という概念と「コミュニケーションの流れ」がキーワードになります。

 

どの言語でもそうですが、人間は、知らず知らずのうちに話し相手に合わせて話す傾向があります(レジスター)。例えば、赤ちゃんに話しかけるときには赤ちゃん言葉になったり、ペットに話しかけるときにも独特の話し方をしたりしますよね。似たように、私たちのような外国人のドイツ語学習者を見ると、話す方も自然と簡単な言葉を使ったり、ゆっくり話したりするようになっているのです。これは社会言語学的に見ても普通の現象で、コミュニケーションを円滑に進めるためのごく自然な反応です。言語学では、これを、"Foreigner Talk"と呼んだりもします。文法・語彙・発音、様々な面で簡略化が見られるのが特徴です。

実は、言葉というものは、私たちが想像する以上に様々な姿を見せてきます。言語学には、実際に外国人に向けた話し方と母語話者に向けた話し方を比較した研究がたくさんありますが、多くの研究で、この二つの話し方(レジスター)では、言葉の姿が全然違うことが示されています。有名な研究には、ドイツ語ネイティブのガストアルバイターに向けた話し方を調べたものがありますが、冠詞を付けずに話したり、文ではなく単語だけで話したり、普段ドイツ人同士で話すのとは全く違う話し方をすることを示したものもあります。これは非常に特殊な例ですが、文構造、語彙、話す速度や発音といった言葉の特徴は、話し相手やシチュエーションによって大きく変わってくるものなのです。

 

また、あからさまな外国人扱いこそされなくても、二人きりでドイツ語のネイティブと話すときには、自然とお互いわかりやすいような話し方をするようになっています。お互いの話し方が似てきたり(いわゆる「コンバージェンス」)、分からなかったら聞き返すチャンスがあったり。

 

さて、外国人向けの話し方の影響がなくなって一気に理解のハードルが上がるのが、ドイツ人同士の会話。話す速度も上がるし、使う語彙も人によっては大きく変わったりします。そういう理由で、ただでさえドイツ語を理解するのが難しくなるのに、もう一つ大きな壁があります。それは、分からなかったときにその都度質問する難易度が上がること。二人きりだと、あれ分かんないやって思った時に顔をしかめてみたり、首をかしげてみたり、意味を質問してみたり、コミュニケーションを円滑に行うために要点を聞き返すことができます。しかし、ドイツ人同士の会話に混ざっていると、他の人たちが基本的な情報を共有している中でそれを自分一人が聞き返すのは逆に会話の腰を折るような気がしてしまいます。気付いたら途中で会話の内容がちんぷんかんぷんになって、一人ぼんやり、私今何してるんだっけ、と自問した経験がある人も星の数ほどいると思います。あとは、彼らの話す速度が速すぎて、自分のドイツ語はゆっくりすぎて時間を取ってしまうんじゃないかとか、文法を間違って嫌な顔をされたらどうしよう、とか、不安要素も増えて、会話についていく心理的なハードルがどんどん上がっていったりもしますよね。

 

でも、ドイツ人同士の会話についていけない時は、決して語学力が下がったからというわけではなく、シチュエーションに左右されているだけなのです。特定の人と話すときや、特定のシチュエーションでならちゃんと話せるのに、ドイツ人同士の会話になった時にはうまく会話に入れないと思うとショックだし、怖いし、って気持ちはすごくよくわかります。ごく稀に外国語の話者に慣れていなくて嫌な反応をしてくる人もいないこともありませんが、向こうのネガティブな反応を予想しておびえる必要はありません。言葉の間違いを気にして馬鹿にしてくる人も、少なくとも私は遭遇したことがありません。案外言葉の意味を質問してみたらうれしそうに説明してくれる人も多いし、そこからさらに会話が広がったりもします。ドイツの人にも、自分が外国人として外国語を話した経験がある人がたくさんいるので、共感してくれる人が大半だし、一度分からないことを示せば学習者にレベルを合わせてくれたりもします。

大事なのは、これを、迷惑をかけて申し訳ないとか、会話をしたい人たちの足を引っ張ってるとか思わないことです。気を遣ってくれたら、ありがたく受け取ればいいし、やっぱり分からなければ、そんな日もあるよね~って思うくらいでいいですよ。会話を重ねるうちに、いつの間にか物おじせずドイツ人同士のおしゃべりの輪に入れる日が来ます。

 

皆さんも、ドイツ人の会話にあまりついていけなくても、身構えすぎずゆるーく言葉の違いでも観察してみてください。かれらのドイツ語の特徴を観察して、言語学者を疑似体験するのも楽しいですよ。それではまた☺

 

 

にほんブログ村 外国語ブログ ドイツ語へ

にほんブログ村

 

補足:語学学校で触れるドイツ語と大学で使うドイツ語の違いについての感想は過去に記事にしたことがあるので、興味のある方はぜひご覧ください。