ドイツゴサイコウ

ドイツ語の仕組みについて再考するブログ

【ドイツ語音韻論】Susi & Strolch (101匹わんちゃん) の読み方

みなさんこんにちこんばんは。今日は、もうすぐドイツで公開されるらしいディズニー映画のタイトルを見てインスピレーションを受けました。みなさんは、Strolch の正しい読み方が分かりますか?特に、最後の二文字。今回のテーマは、ずばり標準ドイツ語の ch の読み方について。

 

おさらいですが、この ch は二文字で一音を表しています。英語の sh に近い感覚ですね。ヒに近い音、フに近い音、はたまたキやクとも読めてしまうこの二文字ですが、読み方にはある程度の規則性があります。特に大事になってくるのが、語中での位置と、ch の前にどの音が来るかの二点です。

 

①語頭の ch (3 パターン)

China、Chemie、Chiemsee という ch で始まる単語をどう読むのかという話は、ドイツ語の授業でもおなじみのネタですね。標準ドイツ語では、日本語のヒに近い/ç/という音が正しい読み方です。でも、南の方言ではキ・/k/、北の方ではシ・/ʃ/ と読むなど、地域差が大きいのが特徴です。ちなみに Chiemsee という地名は、この湖がある地方の発音に従ってキームゼーと呼ぶ慣習があります。Chemnitz も同じ理屈でケムニッツと発音されます。

ただし、フランス語由来の外来語 Chef、Champagne、Chapeau などでは、どの地域でもシ・/ʃ/ というのが正しい読み方です。まだドイツ語に慣れていない方は、もしかしたら外来語なんてどうやって見分けるの~なんて思うでしょうが、これも、勘に任せるのが一番早いです。あとは、上に紹介した発音記号(ç、k、ʃ)を覚えて辞書で確認するのもいいでしょう。周りにドイツ語を話せる人がいるなら、ちょくちょく質問して読み方をチェックするのもいい手です。

そのほかもう一つ、後ろに子音が続く場合があります。おなじみの人名 Christus (キリスト)から派生した人名に多い綴りですが、この場合の ch は英語と同じようにク・/k/と読みます。この例には、Christina (クリスティーナ)、Chronik (クロニーク) などがあります。日本語の癖で、r の前に母音を入れないように注意してください。

 

②語中・語末の ch (2 パターン)

これには、ch の前に来る音が口のどのあたりで発音される音なのかが大きく関係しています。母音が口のだいたいどのあたりで発音されるかが見えるように、音声学でよく目にするVokaltrapez (母音が発音される位置を表した図)に、横から見た顔を描き足しました。絵心のなさには目をつぶってください。

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母音を発音するときの口の中のイメージ図

 

①口の後ろの方で発音する母音 (u・o・a)

まずは、u・o・a の三つから見ていきましょう。これらの母音の後に続く ch は、ヒというよりはフとかホのような音です。どれも、喉の奥の方で、呆れ切って、もー!!って思いながらため息をつく時みたいな音。カタカナでフと書くと混乱しやすいけど、口の前の方で発音する日本語のフとは全く別物です!下手したら今から痰でも吐くの?って聞きたくなるような音、とでも言いましょうか。身近にネイティブがいる方は、思いっきりBuch、Bochum、Bach と言ってもらってみてください。

よく聞いてみると、u・o・a の後に続く ch はそれぞれ違う音で、ハ、ホ、フ、みたいに聞こえます。これは、音韻論で「同化」と呼ばれる現象で、母音と子音が口の中の同じ場所で発音されることと深く関係しています。すべては、発音しやすさのため。アって言った後にホなんて口の形にするのは、なかなか大変です。母音の後に口の形を無駄に変えないことを意識すると、自然とドイツ語っぽい発音になります。

 

②口の前の方で発音する母音 (i・ü・e・ä・ö)と子音

先ほど紹介した三つの母音以外の母音以外(i・ü・ö・e)に続く ch は、日本語のヒに近い音で発音されます。ich、Bücher、möchte、echt という単語を聞いてみると明らかですね。この場合同化現象は起こらず、すべて同じ音です。

また、n・l・r などの子音の後に続く ch も同じ音です。例は、München、durch、Milchなど。今回の記事のタイトルになっている Strolch もこれにあたります☺コツは、日本語と違って ch と発音した後に母音を挟まないこと。

 

さておさらいです。標準ドイツ語の ch の読み方は割と複雑で、語中の位置・前に来る音、外来語であるかどうかによって大きく分けて5パターンか存在します。

気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、Macht - Mächteなど、同じ単語なのに単数・複数形で子音の読み方が変わってしまうのにはこういう理由(いわゆる同化現象)がありました。メハテ、なんて単語があったりしたら、ものすごく読みづらいですからね。

 

ドイツ語圏内にお住まいの方で、オーストリア在住の方がいらっしゃったら非常に混乱しているかもしれませんね。これは、オーストリアのドイツ語では、先ほど説明した標準ドイツ語のルールとはまたルールが適用されることに起因しています。

a の後に続く ch の読み方はハ、というお話をしましたが、何を隠そう、文字で durch と書いてもこの場合の r の発音自体は a と全く同じです(詳しくはRの母音化という現象を説明したこちらの記事からどうぞ!)。綴りの通りに ch の発音が決まる標準ドイツ語と、実際の発音に即して ch の発音が決まるオーストリアのドイツ語という2パターンが存在するので、こういうバリエーションが発生するわけです。面白いですよね。

 

パターンこそ多いものの、規則性のある ch の読み方をこの際マスターしていただけたならうれしいです。それではまた☺

 

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