ドイツゴサイコウ

ドイツ語の仕組みについて再考するブログ

【ドイツ語音韻論】Rの落とし穴

みなさんこんにちこんばんは。さて前回はドイツ語の母音の「緊張」についてご紹介しましたが、今日はあまりフォーカスされることのない二つの母音について書いていこうと思います。

 

一つ目はSchwa、いわゆるシュワー(曖昧母音)です。基本的に、アクセントが置かれない音節にあるeは、普通のeよりずっとゆるく発音されます。Ketteという単語の例を見ると明らかですが、一つ目の強調されるeは日本語の「エ」のように発音されるのに対し、二つ目のeはどちらかというと「ウ」に近いようななんとも言えない曖昧な音です。

シュワーは、たとえばbenehmen、Bitteのように、接頭辞や語尾に現れることが多いです。皆さんは、ドイツ語にはやたらとeやenで終わる言葉が多いな~と思ったことはありませんか?これは、ドイツ語が進化する過程で、強調されない母音の発音が弱まってシュワーになった現象(Nebensilbenabschwächung)と深く関係しています。この場合のeは、曖昧母音というだけあって非常にゆるーく発音されます。口の力をできるだけ抜いて、ボケっとしながら発音するのがコツです。ちなみにシュワーの発音記号は/ə/です。

 

二つは、Lehrer-Schwa。この音は基本的に母音の後に続くRを表しています。Mutterという単語を聞くとわかるように、日本語の「ア」に近い音です。この母音が、今回の記事のタイトル通り多くの日本人が引っかかる落とし穴なのですが、これには日本語の中にあるドイツ語が関係しています。

ドイツの首都を舞台にした森鷗外の「舞姫」には、

  • ベルリン Berlin
  • ウンテル・デン・リンデン Unter den Linden
  • ティアガルテン Tiergarten

といった地名が出てきます。どの例に出てくるRも、-er、-ier、-arという風に、母音の後に続く音なのですが、この例の中では、基本的にRを「ル」と読んでいます。この中で唯一の例外が「ティ」。この「ア」が、今紹介しているLehrer-Schwaです。実は現代の標準ドイツ語の話し言葉では、母音の後に続くRは「ル」のような子音としてではなく、「ア」のような母音として発音されるのです。これをドイツ語でR-Vokalisierung (Rの母音化)と言います。こちらの発音記号は/ɐ/です。

なので、これらの単語をドイツ語風にカタカナに直すと

  • ベアリーン
  • ウンタ―・デン・リンデン
  • ティアガーテン

のような感じになります。

厄介なのは、ドイツ語を話すときに、日本語の読み方を知らず知らずのうちに使ってしまうこと。このせいで、ドイツ語を見たときにも無意識のうちに実は「ア」として発音すべきRも全部「ル」と発音してしまったりするんですね。似たような例は、他にも、ドトムント (Dortmund)、エアフト (Erfurt)、ブク (-burg)・ベク (-berg)で終わる数々の地名… など数えだしたらキリがありません。これも全部、どちらかというとドアトムント、エアフアト、ブアク、ベアク、という風に発音されるんですね。なのでみなさんは、Rは必ずしも「ル」として発音されるわけじゃないってことを頭の隅に置いておいてください!

ちなみにこのLehrer-Schwaとドイツ語のaの音は音声学的に見るとほぼ同じ音です。これに関する実験もあって、OpaとOperは実はどちらもほぼ同じように発音されるということも分かっています。

 

今回もお読み頂きありがとうございます。本シリーズの次回は母音の長短の見分け方のコツについて紹介していく予定です。

それではまた☺

 

参考文献:Bockelmann et al. (2016) Opa vs Oper: Neutralization of /ɐ/ and unstressed /a/ contrast in a perception and production study. URL: https://kar.kent.ac.uk/57990/1/P&P12_OpaOper_final.pdf

 

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