ドイツゴサイコウ

ドイツ語の仕組みについて再考するブログ

【ドイツ語の変遷】zu Hause の e

みなさんこんにちこんばんは。今日も少し時事ネタを絡めたドイツ語情報をお送りします!今回のテーマは、最近よく聞くフレーズ "Bleiben Sie zu Hause!" についてです。

 

Zu Hauseという言葉は、もともと 三格支配の前置詞 zuと、中性名詞の Haus からきています。でも、この e がどこから来たのか不思議に思ったことはありませんか?

実はこれ、決まった格では名詞に語尾を付け足すというルールと大きく関係しています。言い換えると、二格(Genetiv)の s や、複数三格(Dativ Plural)の n と全く同じ仕組みなのです。des Hauses, den Häusern のように。

今はなくなってしまいましたが、昔のドイツ語には、複数だけではなく単数三格(Dativ Singular)の単語にも e という語尾がつくというルールがありました。例えば、dem Hause のように。現代のドイツ語ではこのルールは淘汰されてしまいましたが (dem Haus)、このルールが残ったフレーズもあるのです。例えば、zu Hause や im Falle、im Sinne など。これらの単語に共通しているのは、すべて前置詞の作用で三格になっているということです。

ちなみに、zu Haus という言い方も許容されるのは、現代ドイツ語文法からすれば単数三格の名詞に e が付かないのは当然だからです。でも、文語的に好ましい書き方は、zu Hause のようです。zuhause という風に繋げて書かれる場合もありますが、Duden は新正書法に則った zu Hause という書き方を推奨しています。ここまで様々なバリエーションが発生するのは、頻繁に使われる単語ならではのこと。

 

普段フレーズ内の格を意識することは少ないですが、細かく分析してみると、いろんなことがわかって面白いですね。

 

このブログでは、今回の記事のように、普段意識しない規則を紐解いていくことを目的としています。

それではまた☺

 

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今ドイツ語で一番よく聞くフレーズ - 天井が落ちてくる?

みなさんこんにちこんばんは。相変わらずコロナウイルスの影響で思うように動きの取れないドイツからお送りします。さてこんな状況なので、今日は最近ドイツ語で一番よく耳にするフレーズをご紹介したいと思います。それは、

 

Mir fällt die Decke auf den Kopf.

 

です。直訳すると、「頭の上に天井が落ちてくる」という意味になります。直訳はちんぷんかんぷんですね。このことわざは、すごく息苦しく感じる状況を表しています。友達や同僚と話していると、やることが制限されて辛い心情を表すためにこの表現を使う人が非常に多いです。ずっと家にいるから、つまらないな~って感じで。

私は初めてこのフレーズを聞いたとき、えっ、家にいすぎたせいで天井落ちてくるの?家の作り脆すぎない?と思って混乱しました。が、決してそういう意味ではありませんよ~。

 

今日は珍しく時事ネタになりましたが、大変なのは全世界共通ですね。でも、いつかはこの状態にも終わりが来るはずなので、その時を心待ちにして、今は時が過ぎるのを一緒に待ちましょう。皆さんもどうぞご無事で!

 

それではまた☺

 

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【ドイツ語音韻論】母音の長短の見分け方のコツ

みなさんこんにちこんばんは。ドイツ語音韻論シリーズも、一回目二回目に引き続き三回目に突入しました。予告していた通り、ドイツ語の母音の長短の見極め方についてお話ししていきます。

 

さてドイツ語を学習された方なら一度は、ドイツ語の母音の長短をすぐに見分ける方法があればいいのにな~なんて思ったことがあるかもしれませんね。母音の長さが伸ばし棒を使ってはっきりマークされる日本語と違って、ドイツ語では、母音の長さは結構分かりづらいからです。今日はそんな方のために、いくつかコツを紹介します。

 

①長母音の見分け方

まずは、長母音の見極め方から。ドイツ語には、Längungszeichen/Dehnungszeichenと呼ばれ、長母音をマークする役割を担う文字があります。日本語でいう伸ばし棒みたいなものですね。これには h と二重母音の二つがあり、ihnen、Uhr、Kaffeeなどがその例です。これらの母音は、必ず長母音として発音されます。

そのほかに、ieは基本的に長母音になります。例えば、die、Krieg、schließenなど。例外は、Aktie、Studie などのラテン語由来の外来語。カタカナにすると、アクツィエ、シュトゥーディエみたいな発音です。コアな話をすると、この場合の ie は一音節ではなく二音節なので、はっきりイ・エと区別して発音しているのが聞こえるはずです。それに対し長母音の ie は一音節なので、イーとしか聞こえません。

 

②短母音の見分け方

短母音は、母音そのものではなく、その後に続く二重子音によってマークされます。Betten  - Bete、denn - denという組み合わせを見ると、二重子音での前の母音が短く発音されるのがはっきりしますね。ここで注意してほしいのは、ドイツ語では、日本語と違って、小さい「ッ」や「ン」が入るわけではないということです。MutterやButterという聞き慣れた単語も、よく聞くと、ムッター・ブッターというよりは、ムター・ブターと発音されます。Nonneも、ノンネではなくどちらかというとノネと発音されます。

また、tz、ckも二重子音と同様の扱いを受け、短母音をマークする役割を担っています。例は、Katze、backenなど。(ただし、北ドイツの方言ではckが長母音をマークする場合があります。このテーマについてもっと知りたい方は、こちらの記事もどうぞ!)

 

③どっちもありえるケース

一番厄介なのは、長母音や短母音をマークする文字がなく、一見しただけでは判断できない単語です。例えば、Mine、Kalk、gut、Wal、Küche、Wald、Kuchenなど。ものすごく雑にいうと、母音の後に子音が二つ以上続く場合、短母音の場合が多いです (Kalk、Küche、Wald)。でも、Kuchenみたいな例外もありますよね。これに関しては、アクセントと音韻構造が大きな役割を果たしているのですが、これを説明しようとするとすごく専門的になってしまうのでここでは省略します。

結局、特に母音の長短がマークされていない単語の読み方は、焦らずに一つずつ覚えていくのが一番早いのかなと思います。慣れてくると不思議なもので自然と読めるようになります…。

 

この三つを表にするとこんな感じです。

  マークあり マークなし マークあり
母音の長短 ②短母音 ③短母音・長母音 ①長母音
綴り 二重子音 単母音・単子音 二重母音・h・ie
Mitte Mine Miete

 

他にもう一つ重要な規則があって、接頭詞が付く時や、二つ以上の単語が組み合わされる時には、h や二重母音が長母音をマークする規則は適用されません。例えば、behalten (be + halten)、beenden (be + enden)など。また、単語がドイツ語由来なのか、外来語なのかといった要素も、綴りと読み方の関係に大きく影響しています。

 

いろんなパターンがあるので、これだけがすべてとは言い切れないのが苦しいところです…。単語の読み方を覚えるのは骨の折れる作業にはなりますが、なんとなくコツがつかめるとその先に進みやすいです。そのために、普段からドイツ語の発音と綴りの規則性に気を付けるといいかもしれませんね。ちょっと意識するだけで、発音の上達にもつながりますよ!

 

最後に、綴りと発音の関係性のことを、専門用語でPhonem-Graphem-Korrespondenz と呼びます。英語のようにこの関係性が非常に複雑な言語もあれば、日本語のローマ字のように単純な場合もあります。ドイツ語では、これが複雑な場合tief、単純な場合flachという言い方をします(これもコロケーションの一種ですね)!

 

専門的な話は増えますが、これからも、ドイツ語の読み方・発音のコツを定期的にお届けできればいいなと思います。

それではまた☺

 

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ドイツ語は役に立たない?

みなさんこんにちこんばんは。元気でお過ごしでしょうか。最近ふと、高校生の頃に渡独の決意をしたためた文章を目にして、かつての葛藤を思い出したねずみです。今日は、日本に住んでいた時によく聞かれた「ドイツ語を勉強して何になるの?」という質問に遅ればせながら答えていこうかと思います。

 

私は高校生のころ、ドイツ語学習に熱中していました。それは、ドイツの大学に進学して、歴史学を学ぶという夢を叶えるため。若いなりにいろんなことを考えて、ドイツ史を勉強するならどこの大学に進学するのがいいのか、むしろドイツに行った方がその道を極めるための近道なんじゃないか、なんて思った末の結論です。当時から言語オタクの気質も強く、ドイツ語学校に通ったり、独検を受けたり、ドイツ語学習を思いっきり趣味として楽しんでました。受験勉強もほったらかしにして…。(ちなみにその後の顛末はこちらから!)

 

そんな様子を見て我慢ならなかったのか、周りの大人、特に先生によく言われたのは、ドイツ語なんて学んでも何にもならないんじゃないか、ということでした。私からしたら、学習そのものが楽しくて仕方ないからそれで完結していたし、ドイツに住んでドイツ語で資料を読みながら大学で勉強するのが目標だったからかなり的外れな指摘ではあったのですが。よく言われた以下の三点にそれぞれ反論しますと…。

 

①仕事にならない

なりますとも。日本に住んでいようと、どこの国に行っても、心持ち次第でどんなキャリアパスもあり得ます。ましてや外国語をしっかりマスターして母語話者レベルまでもっていけば、ドイツで働く一番強固な足場を築けます。日独の通訳・翻訳はすでに市場が満杯と言われていますが、そうでなくても、日本にもドイツ関連の仕事は山ほどありますし、ドイツで日本関連の仕事に就く場合もドイツ語力はマストです。おそらく趣味レベルのドイツ語を想定してたのだと思いますが、これに関しては見ているビジョンが最初から違ったとしか言えません…。

 

②使用する機会がない

そんなことはありません。私の出身地は結構な田舎なのですが、そこに住んでいれば当然ドイツ語とは縁がありません。でも、一生出身地に住み続ける気もなかったし、日本にだって、たくさんのドイツ人が留学や旅行に来ています(彼らも英語・日本語が話せるとはいえ)。ましてやインターネットを使えば、世界中の人と交流ができる時代です。ドイツ語を使う機会は、自分で探せばいくらだってあります。

ドイツ語圏に来るなら、なおさらのことです。私がドイツ生活で強く感じたのは、現地語を話す能力は外国人として見知らぬ国で生き残るために一番必要なことだということです。現地人と自分の力でコミュニケーションを取るためや、現地語で勉強・仕事するため、また、今のような非常時に自力で情報収集するためにドイツ語はなくてはならないもので、どれだけレベルが上がろうと決して損することはありません。

 

③役に立たない

(私怨が入りますが、)これほどナンセンスな言い方はないと思います…。どの外国語でもそうですが、新しい言葉を学ぶことは、新しい文化との出会いにつながります。ドイツ語の母語話者だけでなく、他のドイツ語学習者と出会うことで、今まで知らなかった価値観や、世界の文化も知ることができます。いろんな考え方の人と出会い、話すことを通して、自分の価値観をアップデートして成長していくことは、私にとって何よりも大切なことです。もちろん日本語だけでも十分できることですが、情報源が増えることで、より客観的なものの見方ができるようになります。これってものすごいことだと思います。

私は、日本以外の出身の人と出会って初めて、文化の違いを理解するために日本について詳しく調べたり、自分の考え方のルーツに思いを巡らせるようになりました。これは、外国語を勉強していなければ絶対にたどり着かなかったテーマだと思います。

 

あれから数年経って言えることは、ドイツ語を学び始めたのは、人生の中で一番といってもいいほどいい決断だった、ということです。それは私が、ドイツ語を学ぶことで非常に大きく成長できたからです。決して学び始めたその日に人生が180度変わったのではなく、何年も勉強していく中で、少しずつ進化しながらたどりつけた結論ですが。

誤解してほしくないのは、ドイツ語の勉強を始めたから・ドイツに来たからってガラッと何もかもが変わるわけではないってことです。普段口に出されることは少ないけど、外国語を長年勉強してきた方や海外に住んだ経験のある方なら誰もが経験してきたことだと思います。変化は、時間が経ってから気付くものだし、一つの外国語をモノにするにはものすごい労力と時間がかかるのも事実で…。外国語である以上、何年経っても尽きない悩みというのも付きまとうという点にも触れる必要があるでしょう。それでも、学習を積み重ねていれば、いつか「役に立たない」なんて指摘が戯言だったことに気付く時がいます。

 

もし、周りの言葉に惑わされて目標を失いかけている人がいたら、このブログはあなたを全力で応援しています!学ぶことを続けていれば、いつか、素敵な場所にたどり着いていたことに気付く日が来ます!

 

今日は熱血ブログみたいになりましたが、楽しんでいただけたならうれしいです。

それではまた☺

 

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ドイツ語化していく私の日本語

みなさんこんにちこんばんは。今日は、外国に住んでいると避けられない日本語力の低下について書いていこうと思います。

 

今週家族と電話でウイルス関連の話をしていた時のこと。国ごとの統計を出来心で読んでいたら、スペインの発音を笑われてしまいました。シュペインってどこ?って…。

これは何を隠そう、sp/stをschp/schtと読むドイツ語の仕業。まさかこんなマクロなレベルで日本語が侵食されてしまうとは。全体的にサ行、特にシの発音もおかしくなってしまったので困ります。トホホ。私はもともと歯並びがずれていてサ行に恨みがあったので、苦手意識は募るばかりです。

 

あとは、u の発音も結構独特になってきて、例えるなら劇団四季の濱田めぐみさんみたいな感じです(すごくコアですが)。どちらかというと日本語のオに近い、ウよりもずっと口をすぼめた感じの音です。

 

ただ、日本語が変になったからといって、ドイツ語がパーフェクトかというとそうでもなくて厄介なのです。シュにしても、ウにしても、日本語でもドイツ語でもないどっちつかずの発音で、どの言葉で話しても違和感がまとわりつくのです。英語はもっとひどくて、謎のドイツ語訛りがあります…。でも、日本っぽいエッセンスもあって国籍不明の発音になります。

 

ちなみに外国語の発音の研究に、母語と外国語の音が頭の中でハイブリッド種を生み出す、みたいな論文があるのですが、まさにこの現象が起こっていると言えますね。言語学オタクとはいえ、実際に自分にこういうことが起きると何とも言えない気持ちになります。(ちなみにこちらの論文です。Best, Catherine T. (1995): A direct realist view of speech perception.)

  

それではまた☺

 

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コロケーションを調べる近道

みなさんこんにちこんばんは。今回の記事では、前日紹介したコロケーションの調べ方をご紹介します!必要なのは、ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミーの運営するコーパス、DWDS (Digitales Wörterbuch der deutschen Sprache, ドイツ語オンライン辞典)だけ。

コーパスとは、言語学で言うデータベースのことです。過去に公開された文学や新聞・学術論文からドイツ語の用例を大量に集め、ドイツ語の実際の使われ方を探るために使われるツールです。

 

このサイトの何が素晴らしいかというと、一つの単語の用例を、使われ方と頻度ごとに表示させることができる点。コロケーションの記事でDudenのサイトをご紹介しましたが、これよりも発展した内容を検索することができます。こちらのオンライン辞典では、主に意味・語源・類語・コロケーション・用例を単語ごとに知ることができます。数ある機能のうち、今回は二つの機能を紹介します。

 

①Thesaurus、シソーラス

恐竜みたいな名前ですが、これはいわゆる類語辞典にあたります。一つの単語にいくつか意味があるのはよくあるパターンですが、このサイトでは意味ごとの類義語を表示することができます。実際に"Absicht"という語を検索して用例を見てみましょう。

"Synonymgruppe aufklapppen" (類語を表示)というボタンを押すと、下の方に関連語が表示されます。また、それがどのようなコンテクストで利用されるのかが緑で表示されます。例えば、juristisch - 法律用語、ugs. (umgangssprachlich) - 俗語、geh. (gehoben) - 格調高い言い方、bildungssprachlich - 学術用語、veraltet - 古びた言い方 etc.

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②Typische Verbindung、コロケーション

このブログの読者の方なら、コロケーションが何ぞやというのはもうばっちりだと思います。このサイト上では、単語ごとによく使われるコロケーションと、その具体的な用例を表示することができます。用例を表示するには、ここに表示されているそれぞれの単語の右上に表示されている▾(逆三角)をクリックします。

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DWDSの利点は、非常に詳細なコロケーション検索ができることです。これには、右上、もしくは一番下に表示されているDWDS-Wortprofilという機能を利用します。これをクリックすると、新しいサイトに飛びます。一見複雑そうに見えますが、これが非常に優秀です。

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横に三つずつ表示されるこの小さい箱ですが、これは単語が文中で使われる位置を示しています。例えば、一段目真ん中の"hat Adjektivattribut"は、Absichtという単語がどんな形容詞と組み合わせられるかを示しています。青く表示されている単語をクリックすると、実際の用例が表示されます。この機能を使うと、erklärte Absicht(宣言された意志)、ursprüngliche Absicht(本来の意図)、böse Absicht(悪意)といった組み合わせがよく使われていることが分かります。一段目右の"ist Akk-/Dativ-Objekt von"は、Absichtという単語の前に、どんな動詞が使われるかを示しています。見てみると、Absicht bekräftigen (意思を表明する)、Absicht bekunden (意図を探る)、Absicht unterstellen (意図する)といった組み合わせが頻繁に使われるようですね。ほかにも、たくさんの使われ方を調べることができます。

 

このサイト、特にWortprofilを利用するにはある程度のドイツ語の知識が要求されますが、恐れずにたくさん利用してみるとすごく楽しいと思います。サイトで使われている専門用語の一部は、この記事でも紹介しています。Learning by doingが一番なので、使ってみて質問がある際には、ぜひコメントしてみてください!

 

それではまた☺

 

注:今回の記事は、あくまで私的な利用を想定しています。用例を利用する際や商的目的でこのサイトを利用する人は、必ず利用規約を確認してください。

 

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【ドイツ語音韻論】Rの落とし穴

みなさんこんにちこんばんは。さて前回はドイツ語の母音の「緊張」についてご紹介しましたが、今日はあまりフォーカスされることのない二つの母音について書いていこうと思います。

 

一つ目はSchwa、いわゆるシュワー(曖昧母音)です。基本的に、アクセントが置かれない音節にあるeは、普通のeよりずっとゆるく発音されます。Ketteという単語の例を見ると明らかですが、一つ目の強調されるeは日本語の「エ」のように発音されるのに対し、二つ目のeはどちらかというと「ウ」に近いようななんとも言えない曖昧な音です。

シュワーは、たとえばbenehmen、Bitteのように、接頭辞や語尾に現れることが多いです。皆さんは、ドイツ語にはやたらとeやenで終わる言葉が多いな~と思ったことはありませんか?これは、ドイツ語が進化する過程で、強調されない母音の発音が弱まってシュワーになった現象(Nebensilbenabschwächung)と深く関係しています。この場合のeは、曖昧母音というだけあって非常にゆるーく発音されます。口の力をできるだけ抜いて、ボケっとしながら発音するのがコツです。ちなみにシュワーの発音記号は/ə/です。

 

二つは、Lehrer-Schwa。この音は基本的に母音の後に続くRを表しています。Mutterという単語を聞くとわかるように、日本語の「ア」に近い音です。この母音が、今回の記事のタイトル通り多くの日本人が引っかかる落とし穴なのですが、これには日本語の中にあるドイツ語が関係しています。

ドイツの首都を舞台にした森鷗外の「舞姫」には、

  • ベルリン Berlin
  • ウンテル・デン・リンデン Unter den Linden
  • ティアガルテン Tiergarten

といった地名が出てきます。どの例に出てくるRも、-er、-ier、-arという風に、母音の後に続く音なのですが、この例の中では、基本的にRを「ル」と読んでいます。この中で唯一の例外が「ティ」。この「ア」が、今紹介しているLehrer-Schwaです。実は現代の標準ドイツ語の話し言葉では、母音の後に続くRは「ル」のような子音としてではなく、「ア」のような母音として発音されるのです。これをドイツ語でR-Vokalisierung (Rの母音化)と言います。こちらの発音記号は/ɐ/です。

なので、これらの単語をドイツ語風にカタカナに直すと

  • ベアリーン
  • ウンタ―・デン・リンデン
  • ティアガーテン

のような感じになります。

厄介なのは、ドイツ語を話すときに、日本語の読み方を知らず知らずのうちに使ってしまうこと。このせいで、ドイツ語を見たときにも無意識のうちに実は「ア」として発音すべきRも全部「ル」と発音してしまったりするんですね。似たような例は、他にも、ドトムント (Dortmund)、エアフト (Erfurt)、ブク (-burg)・ベク (-berg)で終わる数々の地名… など数えだしたらキリがありません。これも全部、どちらかというとドアトムント、エアフアト、ブアク、ベアク、という風に発音されるんですね。なのでみなさんは、Rは必ずしも「ル」として発音されるわけじゃないってことを頭の隅に置いておいてください!

ちなみにこのLehrer-Schwaとドイツ語のaの音は音声学的に見るとほぼ同じ音です。これに関する実験もあって、OpaとOperは実はどちらもほぼ同じように発音されるということも分かっています。

 

今回もお読み頂きありがとうございます。本シリーズの次回は母音の長短の見分け方のコツについて紹介していく予定です。

それではまた☺

 

参考文献:Bockelmann et al. (2016) Opa vs Oper: Neutralization of /ɐ/ and unstressed /a/ contrast in a perception and production study. URL: https://kar.kent.ac.uk/57990/1/P&P12_OpaOper_final.pdf

 

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【ドイツ語の敬意表現】メール上達のコツ

みなさんこんにちこんばんは。今回のテーマは、ドイツ語を勉強している人・日常的に使用している人なら一度は頭を悩ませたことがあるであろうドイツ語の敬意表現についてです。今日はその中でも特にメールにフォーカスを当てていこうと思います。これはドイツ語で、俗にE-Mail-KniggeやNetiquetteと呼ばれるものです。

 

どの国の言葉でもそうですが、一番大切なのは、基本の型を覚えることです。最初は全然馴染みのなかった表現も、日常的に使用することでなんとなく感覚がつかめてきます。ドイツ語のメールの構成(Aufbau)は、日本語と同じように、大きく分けて宛名、本文、挨拶の三つに分かれています。

 

宛名(Anrede)に多いのは、

  • Sehr geehrte Frau 苗字/ Sehr geehrter Herr 苗字,
  • Liebe Frau 苗字/ Lieber Herr 苗字,
  • Liebe 名前/ Lieber 名前,
  • Hallo Frau / Herr 苗字,
  • Hallo 名前,

です。見識がない人に対して送るメールで一番スタンダードな始め方は、一番上のSehr geehrte Frau / Sehr geehrter Herrです。私の周りでは、相手を知っている場合、フォーマルな関係でもLiebe Frau / Lieber Herrを使う人がほとんどです。苗字ではなく名前を使うパターンですが、これは仕事でお互いduを使うことを決めてある場合に使います。職場・人によってLiebe / Lieber を使う場合と Hallo を使う場合があります。苗字・名前の後に打つコンマを忘れないようにしましょう。

一つ気を付けたいのは、称号(Titel)です。ドイツでは、博士(Dr.)や教授(Prof.)というのは名前の一部で、これに重きを置く人も多いと言われています。大学の教授や先生にファーストコンタクトを取る際は、特に気を付けてください。

「様」や「先生」の一単語で片付く日本語と違って悩むことも多いですが、向こうが使ってきた宛名と同じものを使うと基本的には恥をかくこともありません。

 

本文(Hauptteil)は、日本語と同じようにまずは導入(Einleitung)から始めて本題(Hauptteil)に入ります。相手のメールに返信するときには、形式的に

  • vielen Dank für Ihre Nachricht
  • vielen Dank für die Information

など、先方のメールの内容に合わせた謝辞から始めることが多いです。

自分からメールを始める際は、テーマを簡潔に述べます。その時よく使われる表現は、

  • bezüglich (~に関して)
  • aufgrund von (~という事情により)
  • da (~のため)

などが多いです。これには非常に様々なバリエーションがありますが、一つの表現を暗記してしまえば、何度でも使いまわすことができるので便利です。一般的に、メールの書き出しをich で始めることはなるべく避けましょうという風潮があります。

本文の書き出しには一つだけ落とし穴があるのですが、それは書き出しは必ず小文字で始めるということです。これは、一文目が宛名で始まっており、文の途中で大文字を使う必要がないからです。メールアプリでは勝手に一文目を大文字にされることが多いので、しつこく修正しましょう。

また、ファイルを添付する際には、Anbei finden Sie ... / Anbei schicke ich Ihnen ... という言い方をします。

内容を書き終えたら、日本語と同じように締めの表現を使います。何かをお願いするときに一番スタンダードなのは、

  • Vielen Dank im Voraus.
  • Vielen Dank für Ihre Aufmerksamkeit.
  • Ich würde mich über Ihre Rückmeldung freuen.

などです。これもメール内容によって様々なバリエーションがあります。

 

メールの最後には、挨拶(Grußformel)署名(Unterschrift)を忘れないようにします。王道は、

  • Mit freundlichen Grüßen
  • Viele Grüße
  • Beste Grüße
  • Liebe Grüße
  • Gruß

などです。一番スタンダードなのはMit freundlichen Grüßenです。宛名と同じで、好まれる挨拶も会社のしきたりや個人によって変わります。ここで注意すべき点は、挨拶はドイツ語新正書法では大文字で始めることと、挨拶の後にコンマを置かないことです。挨拶の後に、署名として自分の名前を書きます。Siezenの関係性ならフルネームを、duzenなら名前だけを書くことが普通です。

 

個人的にすごく難しいと思うのが、宛名と挨拶のカジュアルさの度合いです。ドイツの会社では、上下関係なくduを使うところが多いので、どちらかというとカジュアルなメールの書き方をするところが多いです。私の大学ではあまりフォーマルすぎる表現を好まない先生もいます。逆に、お堅い教授なんかは宛名にProf.と書き忘れただけで返信しないという噂もあります。

一番確実と言われているのは、相手のスタイルに合わせることです。私の個人的な使い分け方は、知らない人なら最初は一番フォーマルな形で始めて、返信が来て向こうのスタンダードが分かればそれに合わせることです。ちなみに私の大学の先生は、こちらからSehr geehrte ... で始めても総じてLiebe Frau ... で返ってきます。

最初のころは、教授にLiebe Frau ... なんて書いていいのかなと思っていましたが、聞いてみたところ別にこだわりがない人も多いみたいですね。すごくlocker(ゆるい)だな~と思います。

 

さて最後に本題の上達のコツですが、とにかく実践すること、これが一番の近道です。特に、ネイティブとやり取りをするうちに自然といろんな言い回しを覚えることができます。あ、いいな、と思う表現があればどんどん真似していきましょう。

メールに関しては、必要に迫られて書かないといけない場面も多いので、完璧に書こうと思う必要はゼロです。なので、失敗を恐れず、基本に気を付けながら回数をこなしていってください。外国人が相手なので、よほどルールを無視しない限りひどい目に遭うこともそうありません。

他におすすめなのは、ドイツ語の例文集をインターネットで漁ること。今日はいろんなキーワードをドイツ語で紹介しましたが、それらをBeispieleやTippsといったキーワードとともに検索するといろんなサイトがヒットします。また、周りに頼れる母語話者がいる際には、こういうことを言いたいんだけどどういう風に表現するのが一番かな~なんて聞いてみるのも非常に役に立ちます。

 

ドイツ語と付き合っていくうえで避けられないメールですが、これをマスターするだけでドイツ社会でもうまく立ち回れるようになります。変な風になっちゃって落ち込むことも日常茶飯事のメールですが、心臓に毛を生やしてどんどんチャレンジしていってほしいです。

 

それではまた☺

 

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【ドイツ語音韻論】母音を振り返ってみる

みなさんこんにちこんばんは。今日はこのブログのタイトル通り、ドイツ語について再考していこうと思います!今日の記事は、基本の発音をマスターした中から上級までの学習者に参考にしてもらえることを目指しています。

 

ドイツ語の母音といえば、複雑そうな台形の図を見せられてなんとなく尻込みしたことがある人も多いんじゃないでしょうか。今日は、なかなか授業で取り上げられることのないドイツ語の長・短母音の意外な違いにフォーカスを当てていきます。

 

皆さんご存知の通り、ドイツ語には、a、i、u、e、oという5つの母音のほかに、ä、ö、üという3つの母音があります。顔みたいでかわいい見た目の割に、日本人にはなかなか聞き取りづらいといわれるウムラウトですね。これらの母音の発音の仕方はこれまでもいろんなブログや教材で取り上げられてきたテーマなので、今回は省略します。

 

これらの8つの母音には、日本語と同じように短い母音と伸ばす母音があります。その時注目してほしいのが、同じ母音でも短母音と長母音ではそれぞれの発音がほんの少しだけ違うこと。一番わかりやすい例を挙げると、BettとBete。近くに母語話者がいる方は、eの部分を強調して読んでみてもらってください。Bettの中のeは、日本語のエのような感じ、対してBeteの最初のeは、日本語のイのように聞こえるのではないのでしょうか。

 

音声学の専門用語では、この違いをGespanntheit(緊張)と呼びます。ドイツ語では、短母音はいわゆるungespannter Vokal(= 弛緩音)、長母音はいわゆるgespannter Vokal(= 緊張音)という性質を持ちます。Hütte/Hüte、Mutter/Mut、Rotte/rotという例を見てみてください。どの例でも、同じ文字を使うのに、実はよく聞いてみると少しだけ違う音なのです。

 

ただし、aとäの二つだけは、緊張性の違いがありません。なので、短母音のa/äと長母音のa/äには、発音的な違いがありません。Wall/Wahl、Hände/Mädchenの中にあるa/äは、それぞれ母音の長短以外を除けば同じ音です。

 

ドイツ語を長く勉強している人で、言っていることは伝わるけどなんとなくドイツ人っぽい発音にならない人は、この母音の小さな違いにフォーカスしてみると少しだけ印象が変わるかもしれません。

 

さて、今日は母音の種類についてさっと説明しましたが、次回はあまり存在が知られていない曖昧母音について書いていく予定です!

それではまた☺

 

追記:次の記事はこちらから!

 

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ドイツにも文系・理系ってあるの? ー ドイツ語力とのつながり

みなさんこんにちこんばんは。今日は、ドイツの大学の文系・理系の違いと語学力の関係について考察していこうと思います。

 

さて、ドイツにも文系・理系の区別があるのかどうかは、今までもよく議論されてきたテーマですね。ドイツの学問分野は、主にGeisteswissenschaft(= 人文科学)とNaturwissenschaft(= 自然科学)の二つに分けることができます。基本的には、Geisteswissenschaftが文系、Naturwissenschaftが理系に対応しています。

ドイツの学位には、主にBachelor(学部課程)、Master(修士課程)とPromotion(博士課程)があるのですが、BachelorとMasterの正式名称にはそれぞれ、Bachelor of Arts, Master of ScienceといったようにArts/Scienceという記載があります。Geisteswissenschaftと言われる科目にはArts、Naturwissenschaftと言われる科目にはScienceがつくといった要領です。この二つの分野の違いですが、ドイツ語の使用という観点から語られることはそうないのではないでしょうか。

 

まず、文学・哲学・歴史学といった文系科目は、ドイツをメインにした分野であればあるほど、ドイツ語力が問われる印象です。特に一次資料の読み込みにドイツ語が必要不可欠なこともあり、ドイツ語で何でも読めちゃう!みたいなガッツがないとなかなかついていくのが厳しいです。しかし、学術の基本として、英語の論文も理解できることも求められます。

五年前、私が歴史学科に入学して一番最初の授業で言われたのは、口頭発表でも、提出する論文でも、ドイツ語力が伴わなければ研究の妥当性が下がる、ということでした。外国人でドイツ語を理解して最低限の表現を使うだけでも精いっぱいなのに、ドイツ語の美しさにまで気を遣うなんて無理じゃんと思ったこともあり、この言葉が未だに頭から離れないのですが…。

このように、文系科目はドイツ語力が直に個人の能力と結び付けられる感覚が強く、割と語学力に関してシビアな世界という印象が強いです。もちろん先生の裁量によるものが非常に大きいとは思いますが。また、科目によってはラテン語、フランス語など、ドイツ語以外の外国語力も求められることもよくあります。

 

さて、それに反して理系科目では、国際共通語である英語の存在感が非常に強く、俗にいうDenglisch(ドイツ語と英語を混ぜこぜにした言葉)を使うことも多いです。一般的な言葉と思っていた単語が、実は自分の科目でしか通じないジャーゴンだった、なんてことも頻繁にあります。基本的に扱う対象は概念がメインで、言葉はどちらかというと二次的なもの、といった雰囲気です。伝わることがメインのため、ドイツ語自体の美しさを求められることは稀です。

そんな感じなので、論文を書く時や発表するときには最低限の言い回しができれば認められるようなゆるめの空気を感じます。なので、文系科目ほどのドイツ語力を求められることはない代わりに、ドイツ語を頑張って勉強してきた意味を見失いかけたりすることもあったりなかったり。かといって基本の授業言語はやっぱりドイツ語なので、発表や論文ではやっぱりそれなりのドイツ語力は求められます。

ただし、基本的な概念に使われる単語を認識できなくて躓くこともあります。例えば、数式の読み方や学校レベルの専門用語は日常的な言い回しとほぼ変わらないため、最初は混乱することも多いです。例えば、関数を意味する"Funktion"。このような言葉は学校で習ったことを前提とされることが多いので、思わぬ落とし穴にはまらないよう注意が必要です(ちなみにこのような専門用語にはGoogle翻訳wadokuがおすすめです)。

 

こちらの大学での生活を通して、科目による留学しやすさってあるのかなあと思ってきたのですが、やっぱりかなりの差があると思います。

 

一番の大きな違いはやっぱり、ドイツ語力に求められるレベルです。ドイツ語を使って思考するのが目標の文系と、はっきりした形を持つ思考をドイツ語という言語を借りて表現する理系とでは、ドイツ語を使うことの目標やそれに必要なレベルが全く違うからです。個人的には、理系にあたる科目の方がずっと勉強しやすいように感じます。なぜなら、どんな言語を使っても、表現したい概念が既にはっきりしているから。もちろん学科そのものの雰囲気や、その科目への興味の強さも強く関係しているのですが。

余談ですが、どの科目でも英語力は必要不可欠といった感じで、上の課程に行けば行くほど、英語力が求められるようになります(これは日本でも事情は全く同じだと思います)。今までドイツ語のために英語力をなおざりにしてきたのに英語力まで求められるんかーい、とツッコミたくもなりますが…。ただし、ドイツ語を勉強すると、不思議なことに英語でも自然と理解できる単語が増えていることに驚くでしょう。これはドイツ語と英語の言語的な近さと関係しています。

 

あくまでこれは 私個人の経験を基にした記事なので、文系・理系といっても、もちろん大学や科目によって様々な違いがあると思います。みなさんの経験や考えをシェアしてもらえると嬉しいです。

今日もお読みいただきありがとうございます!それではまた☺

 

追記:3/24 記事を一部変更しました。

 

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